無くならない勘違い

2012/08/10発売のある雑誌のP186にパワーエレクトロニクスに関する連載記事に次の記載がありました。

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"(3)フェライト・コア
 酸化鉄粉を加圧成形し,焼結させたコアで比較的材料の固有抵抗値が高いので,鉄損が小さくできます。
そのため,数百KHz以上の高周波において使用でき、高周波化によるリアクトルの小型化が期待できます。
ただし,磁束飽和密度が低いので,設計の際にはケイ素鋼板より磁束飽和密度を低く設定しなくてはいけません。主にDC-DCコンバータに使われます。"
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@この文書で言われている趣旨から判断すると、フェライトの材料になる酸化鉄とは酸化鉄(V)、Fe2O3のことでしょう。しかし、ここまま加圧・焼結しても鉄系ダストコアにはなってもフェライトにはなりません。フェリ磁性の発現には金属原子が必要不可欠なのです。

加えて、
A説明文の「材料の固有抵抗値が高い…」から言えば多分、Ni系のコアを指していると思うのですが、後述の「主にDC-DCコンバータに使われます」と矛盾しています。パワー系フェライトに使うものはNi系のフェライトではなく、まだまだMn(マンガン)系フェライトが主力なのです。でもMn系フェライトの体積抵抗率は数Ω・mですので1cm3のサイコロサイズでは100Ω程度の抵抗になります。
ですから、とても抵抗が高いとはいえません。ボビンが必要なのはこのような理由だからです。

Ni系は基本的にはコアロスが大きい材料なのですが、渦電流に起因するロス分は少ないのでBmを下げる事で高周波(数百KHz)での使用を可能していますが、Bmは周波数に逆比例しますので周波数の増加に伴う自然のBmの低下では小型化にはなりません。
例えば、Mn系フェライトでは100KHzなら0.2T(テスラ)程度で設計しますので1MHzでは0.02T(=200Gauss)まで自然に下がりますが、これはコアを固定していますので小型化になっていません。

多分、この文章は以下を参考にされたのでしょう。(原本抜粋)出典と思われる文章

このページはチョークコイル用のコア材について記述しているのでパワーフェライトとは異なっているのです。
真面目にフェライトにつて解説しているサイトは少ないのです。
 でも、
上記の文章を簡単に、より正しく記載するなら以下の文面の方がより良いかと思います。
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"(3)フェライト・コア
 金属酸化物を核にした酸化鉄
の化合物を加圧成形し,焼結させたコアでケイ素鋼板に対して比較的材料の固有抵抗値が高い事、及び磁性発現のメカニズムの差から,損を小さくできます。そのため,数百KHz以上の高周波において使用できるのでケイ素鋼板のコアに対して高周波化によるリアクトルの小型化が期待できます。
ただし,磁束飽和密度が低いので,設計の際にはケイ素鋼板より磁束飽和密度を低く設定しなくてはいけません。主にDC-DCコンバータに使われます。"
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一応、この分野での著名な雑誌なので多くの人が参考にしている筈なのですからキーパーツであるコアについてこんな間違いがあっては困るのです。
パワーエレクトロニクスでは如何に安全に部品を使いこなすかが必要になりますのであえて
取り上げました。